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『長い道』

『長い道』
著:柏原兵三

長い道

ういう仕事をしていると、自分にとって大切な本とそうでない本との見極めが人より鋭くなっている気がする。私が所有するあまり多くない文学小説というジャンルでずっと大切に持っているのがこの「長い道」だ。

「長い道」と言ってもピンとこない人もいるだろうが、この「長い道」はあの藤子不二雄A先生が本作品を漫画化し、後に映画化された「少年時代」の原作、と言えば思い出される方も多々いるのではないだろうか。

簡単に概要を書いて見ると太平洋戦争末期の昭和19年に東京から富山の漁村に疎開してきた小学5年生の杉村潔とその土地に住む少年たちとの一時期の生活を描くのだが、この描写が、かつて少年時代を過ごした人なら誰でも少なからず感じたであろう、この時期の少年たちが持つ表現しようのない、溢れる情動をたっぷりに表現する物語なのだ。

この作品は少年たちの繊細な心の動きに対する表現力がずば抜けていて、特に現代よりももっとひどいのではないかと思われるいじめの描写、その中でいじめる側といじめられる側の心理描写が痛いほど伝わってくる。そして自分が全てを体験したわけでもないのに強烈なノスタルジーに襲われてしまうのだ。

この「長い道」というタイトルは主人公である潔が、慣れない田舎での疎開生活の中、複雑な思いを抱えながら登校していた学校への「長い道」からとられていると同時に、少年が大人になるための「長い道」といった意味も含まれている。

こうして今、この作品を読みながらかつて自分が通過したであろう「長い道」を回顧しているところを見るとやはり私も年を重ねたのだと思う。

 

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